高輝度プロジェクター設置に関するガイドライン

1.はじめに

技術の進化に伴い、プロジェクターの高輝度化が著しい発展をしています。 プロジェクターを安全な位置に設置・設営ができていないと事故にも繋がり、大きな損害が生じる事案が想像されます。 そのような事案を起こさないようにJATET映像部会では、劇場・ホールにおける常設機材だけでなく、移動機材や持ち込み(仮設)機材も想定して、安全に設置・運用するガイドラインを策定します。

2.Laser PhosphorとPure Laser光源

これまでは取扱いに優れているUHE・UHM(超高圧水銀ランプ)が高輝度用プロジェクターに使用されてきましたが、「照明の2020年問題」により水銀が使用されたランプの製造ができなくなり、代替高輝度光源として半導体レーザーが採用されました。 一般的にレーザー光源と呼ばれているプロジェクターは、青色半導体レーザー光を黄色蛍光体に照射(これによりレーザー光のコヒーレンスを解消)した際の白色光を発生させるLaser Phosphor方式を指し、これをプロジェクター用の光源として利用したものです。 Laser Phosphor方式は、青色レーザー+黄色蛍光体では赤色の発色が良くないために、赤色レーザー光または赤色LED光を併用してスクリーンに表示される赤色を補っている機種もあります。 Laser Phosphor方式の他に、赤緑青3色のレーザーを光源とするPure Laser方式があります。 こちらは光のロスが少ない(レーザー光が直接スクリーンに照射される)ため、より高輝度・高発色の映像が再現され ます。 日本ではレーザーの取り扱いに関して経済産業省の管轄になっており、プロジェクターの光源としては使用できなかった(これにより海外との時間差が発生した)のですが、2014年にJIS C6802:2014が改定されて、「従来型のランプとして機能するように設計」とすることにより、発生する分散光源が別の安全規格(IEC062471群)でもリスク分類をすることが可能となりました。 国内での製造基準は、一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)がJBMS-86(レーザを光源とするプロジェクタの安全に関する要求事項)を制定しています。

3.リスクグループについて

IEC62471:2006では、ランプ及び照明器具を含むランプシステムの光に対する生物学的安全性が評価されています。この生物学的障害の段階に応じた危険度の分類を「リスクグループ」といいます。

IEC62471 (JIS C 7550)で規格化された評価基準・手法

図1-1 IEC62471 (JIS C 7550)リスクの種類と測定項目
リスクの種類 波長範囲[nm] 測定項目
目及び皮膚に対する紫外線放射障害(Es 200-400 実効放射照度
目に対する近紫外線放射障害(EUVA) 315-400 放射照度
青色光による網膜障害(LB 300-700 実効放射照度
小型光源※1の青色光による網膜障害(EB 300-700 実効放射照度
網膜の熱障害(LR 380-1400 実効放射照度
網膜の低可視光熱障害(LIR 780-1400 実効放射照度
目の赤外放射障害(EIR 780-1400 実効放射照度
皮膚の熱障害(IEC62471のみ)※2(EH 780-2500 放射照度
※1 jis cで規定した測定距離における視覚が0.011radの光源
※2 jisでは規定されていない

この評価に基づきリスクグループが分類される。

図1-2 リスクグループと光生物学的障害の度合い
リスクグループ 危険度 光生物学的障害の度合い
免除グループ --- 何ら光生物学的障害も起こさないもの
リスクグループ1 低危険度 通常の行動への制約が必要になるような傷害を引き起こさないもの
リスクグループ2 中危険度 嫌悪感および熱的な不快感を伴う傷害を引き起こさないもの
リスクグループ3 高危険度 一時的または短時間の露光によって傷害を引き起こすもの

リスクグループは図1-2の通り、4つの危険度に分類されます。
これらの危険度はレーザー光源に限らず従来のランプにも該当しますので大型フイルム映写機や、クセノンランプ・UHMを使用している高輝度プロジェクターなどが設置されている既存の施設、また持ち込み機材を設置する際にも確認が必要となり、場合によっては是正を提案する事案が発生します。

■リスクグループの略称

リスクグループ(Risk Group)→RGと省略表記されている場合が多い
リスクグループ1→RG1
リスクグループ2→RG2
リスクグループ3→RG3
免除グループの英語名称は「Exempt Group」ですが、RG0と略称されます

※Christie社による取扱説明書での表示例


図2 Christie HS Series 2K 設置および設定ガイドより


写真1,2 本体に貼付されているシールとRG表記

4.安全に設置するためのガイドライン

プロジェクター本体の輝度やレンズの角度により危険区域が変化しますので、以下の部分を確認しながら設備設計計画を行ってください。


図3-1 プロジェクター上部からみた危険区域


図3-2 プロジェクター側面からみた危険区域

高輝度プロジェクターを設置すると、図3-1、3-2の赤色の位置にRG3危険区域が発生します。 区域別に解説すると、

  • Ⓐ RG3区域

    プロジェクターがRG3に入っている場合は、RG3区域となり傷害を引き起こす可能性があるので、生体に触れないようにしなくてはならない

  • Ⓑ 危険距離

    プロジェクターの光エネルギーが生体に影響を与える可能性が強い距離

  • Ⓒ 立入り制限区域

    技術者でない(危険度を認識していない)者や、不可抗力などでRG3の光エネルギーに暴露されないように立ち入りを制限する区域

  • Ⓓ 危険垂直距離

    プロジェクターの光エネルギーに生体が晒される可能性のある高さ

となり、エリアの大きさは機種ごとに変化しますので、数値に関しては各メーカー、販売店にて確認をして算出してください。範囲は機種やレンズにより異なりますので注意してください。

  • プロジェクター点灯時には、調整者・熟練者であっても図3-1,3-2のA区域への立入は禁止
  • 図3-1,3-2のB・Dの安全距離を確保して、生体に対して照射されないように設置する
  • 立入り制限区域内には調整者・熟練者など教育を受けた者以外の立入は禁止
  • プロジェクターは確実に固定して、接触・振動などで光軸がずれないよう設置する
  • RG3プロジェクターの調整は、メーカーや設置会社からの取り扱い教育を受けた者のみ実施することができる
  • 設備設営各会社の安全基準に準ずる

これらの危険区域は常設だけでなく仮設にも該当しますので、移動用機材や持ち込み機材を設置する際にも、設置位置を制限することが必要です。


図4 仮設プロジェクターの立入禁止区域

■仮設参考例

プロジェクターを設置する台は十分な高さを取り、転倒など事故が発生しないように設置します。台の設置場所に段差がある場合は、調整ネジやジャッキベースなどで台の平衡を取るようにしてください。また、台の転倒を防ぐために、アウトリガー等の利用も推奨します。プロジェクターを設置する位置が安全な区域を確保できない場合は、図4のように周囲(前方や横の客席)は立ち入り禁止区域として、実施運営の際には警備と連携して安全管理を行ってください。 客席内に設置する際には、床や客席などを傷つけないように事前に施設へ確認をして、適切な養生を行って機材を設置することが必要です。

5.おわりに

建築状況や設置環境により設営条件がガイドラインに満たない場合には、施設・運営関係者と情報を共有して、安全に運営が行えると判断された方法にて、責任ある設備設営計画を実施して下さい。 例としては、固定された設備であるが十分な安全距離が確保できなかったために、仮設の場合と同様に「技術関係者以外が危険区域に入れないような措置」を行うなど、人を物理的に危険区域へアクセスをさせない措置を取ることが重要です。