平塚文化芸術ホールの設計・施工のプロセス
「軽やかさやカジュアルさ」を目指して

株式会社シアターワークショップ 小林徹也

1.はじめに

弊社は設計段階からプロジェクトに参画し、竣工までの設計施工と管理運営の劇場コンサルティングを行い、開館後は管理運営における事業を担当している。

2.平塚らしいカジュアルさを求めて

事業者選定の際に、最初にチーム内で議論されたのは平塚らしさであった。ホール施設の客席空間が、一般的に重厚感のあるものが多いなかで、ハレの場ではあるが、平塚は、どこか軽やかでカジュアルなイメージがあり、市民が気軽に立ち寄れる雰囲気も重要であるとの共通の認識を得た。その時のイメージの一例として海辺に建つ仮設の飲食店のような軽やかであるが、湘南ならではのセンスの良さなども議論になった。

郊外型で観光等と一体になっている事例としてイギリスのグラインドボーンのオペラハウス等が話題になった。自然豊かな敷地の建物で、木の内装に包まれた客席空間、外部廊下に設置されているオーニング(仮設の庇)等のイメージなどにも共感が得られた。

またコンセプトとして、市民へ、いかに開いていくかということが重要で上演の情報の発信もさることながら、施設計画としても軽やかであり、入りやすいことを目指した。また、目前に大きな見附台公園があることで、施設といかに繋ぐかもテーマとなった。

3.オンリーワンを目指して重ねられた視察

設計から施工の間に数多くの視察が実施された。これは様々な関係者が大勢いる中で、共通の経験と知識を持つことを目的とした。更に深い議論や詳細のイメージを共有する上でとても重要なプロセスであった。

事業者選定の段階では、東北と北陸の視察が実施された。東北では、北上文化交流センターで、日常的な賑わいを創出する共用部のアートファクトリーを視察し、大ホールの側壁がガラス張りで共用部と視覚的に繋がることなどを確認した。


軽快なダラス、ウィンスピアーオペラハウスのホワイエ

釜石TETTOでは小ホールが、施設と外部広場のゲートのような形で、両側壁が開放されることでつながることや、ホールはコンクリートの塊ながら、周辺の諸室は鉄骨造でガラス張りの諸室で構成され、軽やかに創られていることなどを確認した。

事業者に選定された直後には、アメリカへの視察も実施された。ニューヨークとダラスに渡り、数々の劇場群を視察し、街と劇場との関係や最新の劇場空間の意匠や計画等を確認した。

その後も、中国地方、九州地方などの視察を実施した。更に施工段階で施工者と共に最新事例を視察したことは、情報の共有のみならず、高品質な施設を施工するという目線合わせの意味でも重要であった。

4.矩形の敷地に対する2つの配置方法

敷地が矩形の際には大きく2つの配置が考えられる、釜石TETTOの様に敷地の長手方向に舞台と客席の軸を置いてホールを中心にそえるパターン。もうひとつが津市のアルスプラザや、四万十市のしまんとぴあ等にみられる、敷地の短手方向に舞台と客席の軸を置きホール片側によせ、その他の諸室と共用空間を広く確保するパターンである。

後者の方が共用空間をまとまって広くとれ、様々な諸室との連携がとりやすい反面、凡そ敷地の短手方向は50m程度が多いためホール全体の奥行が狭く若干窮屈になる傾向にある。平塚でも当初は、この二つの配置が平行して検討されたが、最終的には短手方向にホールの軸をとプラン配置が採用された。

短手にホールの軸をとったことがホールそのものの形状や空間特性を導いている。ホールは比較的幅が広く1階席のプランは、側壁が舞台に向け少し広がった矩形をしてサイドバルコニー席が桟敷席の雰囲気を出し、どこか歌舞伎劇場のような取り囲み感がある。

5.傾斜を抑えながら鑑賞環境に優れた客席空間


施工段階での1階席の段床のスラブ

最近の中規模以上の客席の断面計画は、1階席にも列ごとに十分な段差をつけ勾配を高くし、視線の確保や床の音響の反射等を獲得する事例が多い。一方でその形式では、ホールのエントランスであるメインのホワイエが2階になってしまうことが懸念点として挙げられる。

民間の劇場では、帝国劇場や歌舞伎座等では1階の都市の地面のレベルから客席空間に入ることにこだわっている。これは街とのつながりを強く意識していることに起因している。

平塚においても前面の広場とのつながりを重要とし、1階席はグランドレベルか入る計画とし、帝国劇場や歌舞伎座の様に、1階席の段差や傾斜は列ごと丁寧に検討することで、必要十分な視線を確保した鑑賞環境として計画された。また、1階席の傾斜が抑えられたことで、2階席と3階席のレベルも低く配置され、見下ろし角が抑えられ、距離感も近く計画されている。

6.取り囲み型とコンパクトさを意識した客席空間


矩形かつ取囲み形の客席空間

3階席からも良好な鑑賞環境

客席の平面計画に関して1階席は歌舞伎劇場のような、幅広の四角い空間で、2階席と3階席はかぶりの少ない形で重ねられ、3階席の奥まで含めると縦長のシューボックスの形状となる。

サイドバルコニー席は舞台に向けて垂直ではなく少し開いたプランとなっており、そこに、俗に「電車型」といわれる縦通路を横に従えた1席ごとの縦列配置としている。サイドバルコニーは平面的に視覚条件が厳しく、日本では見え辛い席として評価されるが、観客で取り囲むことを重視し、1列のみであること、開いていること、電車型であること、レベルが抑えられていること等の最大限の対処をした計画された。

3階席のホワイエはなく2階席の脇から3階席に上る階段があり、延床面積のコンパクト化につとめている。3階席に関しては避難の考え方等で施工段階まで消防との認識合わせ等に労力を費やしていた。特に横通路が出入口に直通するという、直通の解釈(レベル差の有無等)も課題となっていた。

総じて、客席は近い距離から観客が演者を取り囲む空間を実現している。

また客席空間は当初は白い内装で計画されていた。カジュアルさや軽やかさなどの印象を牽引するものであった。計画の途中で施主側から明るい木の色合いが良いとの意見があり現在の色彩となっている。

7.機能性に優れた舞台

舞台は必要十分な広さを確保している。特徴としては舞台のプロセニアム脇のサイドギャラリーはないものの、舞台機構により東西幕バトンとは別にサイドライトバトンを設置している点が挙げられる。


空調吹出や盤の凸凹のない舞台側壁

また舞台の空調吹出しが舞台幕を揺らしてしまうことが都度懸念されるが、平塚では、居住域空調で風速を抑えた吹出しが舞台床近辺の側壁まで下りてきている。一般的には居住域空調の際には吹き出しの半円型の大きなボリュームが出てきてしまうが、平塚では壁をふかしその中に薄いノズルを入れ込むことにより舞台袖の空間を最大限利用できるよう工夫されている。これに伴い、各設備の盤等も全てふかし壁の中に収めることで、各種電源盤などによる不均等な凸凹はなくなり、物理的な整理がしやすい形状となっている。

舞台機構の音響反射板は、下地の木組が工場で制作され、パーツをくみ上げていく手法が実施されており、安全性の確保と、工期の効率化が図られた。

プロセニアム空間においては、スピーカの配置方法が議論となり、サイドスピーカはプロセ壁へ、サブウーハンを中心に上下にライアレースピーカを配置し、センタースピーカは、天井面の中に収納したが、天井板の建築音響の反射の面と、スピーカの三次元の広がりを両立させた意匠的にも特徴的な形状となっている。


工場で制作された音響反射板の下地ユニット


音響反射板形式での開館式典

8.魅力的な共用空間(路地空間と施設の開放)


張り出した文化芸術支援室

北上市文化交流センター以降、共用空間を単純な待合いや移動のスペースとしてのみではなく、日常的な市民の居場所となる「サードプレイス」としての役割を担い、今後は弊社が提唱する交流や新たな創造が生み出す「フォースプレイス」として積極的な施設の意義が期待されている。

平塚においても、交流できるロビー空間があるだけでなく、大小様々な広さの路地空間を取り込むことによって、一人から少人数、大人数の市民が日常的に憩う場所となっている。ガラス張りとなっている創造支援の諸室において2階の文化芸術支援室は、エントランスホールの吹き抜け空間に向けて少し張り出すことで、そこの活動に自然と目が行くような建築的な工夫がなされている。


2階の広めの共用空間


個人利用もできる共用空間


ショーケースの様な大ホールホワイエの角の空間

大ホールのホワイエの上手側には階段の横に、こちらも見附台公園に向けて張り出している部分があり、小さなステージのような、外からはガラス張りのショーケースのような空間となっている。

茅野市民館や由利本荘市カダーレ、釜石TETTOなどでは、超多機能ホールとして客席を段床から平土間を可変し、平土間になった際に室内外へと物理的に繋ぐことで、ホールを開き施設を開くことを実践してきた。


多目的ホールの側壁2面は開放可能

平塚では、多目的ホールの側面が両側開くことにより、見附台公園と多目的ホール、エントランスホールと多目的ホール、更には見附台公園とエントランスホールを繋ぐことができる。可動壁もガラスのものとボードのものと2重のため、完全に閉じることも視覚的に開放すること物理的に開放することを可能としている。

また、大ホールは可変型のホールではないため、1階席が平土間になる様な客席可変はないが、固定の段床がありながら可能な範囲での開放と、舞台上演の雰囲気が共用空間へ染み出すような工夫がなされている。エントランスホールの突き当りにあたる、客席上手側の壁が二重のガラスで中がのぞけることで、正面にホール空間があることを示唆している。また、1階席の後ろが多目的室になっているが、ホワイエ側の壁が開いて小さな舞台になったり、ホワイエの延長として、舞台をのぞけるような工夫がなされている。


客席側面と後部に設けられたガラス壁面


多目的室がホワイエに開放され舞台となる

9.まとめ


オープニングでの公園を活用した催事

平塚文化芸術ホールは事業者選定時期から視察を重ねるなど、早いタイミングから膨大な情報共有と多様な議論の上で設計内容の精査が行われた。その結果、プランは機能的かつ効率的であり、様々な活動が盛り込めるよう計画された。

また意匠に関して共用空間の白い壁面と黒い窓枠の構成は、どこかインターナショナリズムを感じられるなど、設計者の個性も活きていると感じられる。

そして施工段階に至るまで一貫した高い熱意をもって詳細まで突き詰められたことで、平塚にしかない、軽やかでカジュアルながら高品質な劇場・ホールが実現したと捉えられる。