水戸市民会館 舞台音響設備
ヤマハサウンドシステム株式会社 田中雄大/森裕太郎/堀口祐輔
1.はじめに
水戸市民会館は、さまざまな催事を開催できる2,000席の「グロービスホール(大ホール)」、482人収容のシューボックス型の「ユードムホール(中ホール)」、大ホールの舞台と同規模の平土間空間「小ホール」の3ホールを中心に構成。多くの市民が施設に立ち寄り、憩い、くつろぎ、楽しめる施設で、日常的に賑わいを創出している。
ここではグロービスホール(大ホール)およびユードムホール(中ホール)の舞台音響設備について解説する。
2.基本方針
1)基本方針
- 音楽、演劇、集会などの多様な演目に対応
- 運用操作性、安定性、耐久性に優れた、高い信頼性を保持
- 仮設機材等の機器持ち込みに対応
- 運営計画および建築・他設備と良好なバランスを維持
<催物と舞台音響機能の対応例>
2)機器構成
3)目標性能
※「水戸市新市民会館等施設建設物新築工事 大ホール,中ホール,小ホール,大会議室,展示室 実施設計説明書(伊東豊雄建築設計事務所・横須賀満夫設計事務所 共同企業体)」より抜粋
3.グロービスホール(大ホール)
1)スピーカーデザイン
プロセニアム中央上部のプロセニアムスピーカーとカラム両サイドのサイドスピーカーはd&b audiotechnikのラインアレイシステム「Vシリーズ」を採用した。これらは舞台機構設備により昇降でき、音響反射板を使用する演目などスピーカーを目立たせたくない場面では天井内に格納できる。
プロセニアムスピーカーおよびサイドスピーカーの他、客席天井にシーリングスピーカーと壁にウォールスピーカーがあり、効果音の再生など臨場感のある音の演出を可能とした。
プロセニアムスピーカー
サイドスピーカー(下手側)
客席天井内のシーリングスピーカー
客席壁面のウォールスピーカー
(写真〇がスピーカー)
2)舞台音響設備
音響調整室のヤマハ「RIVAGE PM5」
音響調整卓はヤマハのデジタルミキシングシステム「RIVAGE PM5」を採用。音響調整室と舞台袖にある入出力ボックス「Rioシリーズ」からパワーアンプまでをサンプリング周波数96kHzのネットワークオーディオ「Dante」で伝送するシステムを構築した。舞台袖~音響調整室~アンプ室の拠点間は光ファイバーで接続し、安定した信号伝送を実現した。
アンプ室のパワーアンプ架
基幹伝送を「Dante」とすることは3ホール共通とした。これにより、3ホールで基本的な運用が同じとなり、音響備品を3ホールで共用できる。さらに、主催者が持ち込みするDante機器にも容易に接続できるメリットがある。
また、3ホール間に大ホールを中心として光ファイバー網を設け、3ホールを同時使用する大規模イベントにおいて音声や映像を相互にやり取りできる。
パワーアンプは舞台寄りにあるアンプ室に設置した。パワーアンプとスピーカー間の距離を可能な限り短くすることでケーブルロスを最低限とした。
また、d&b audiotechnikスピーカーは同社専用パワーアンプの使用が条件であり、デジタル入力がAES/EBUであるため、オーディオネットワークブリッジ「DS10」にてDanteから変換しデジタル接続した。
移動できるパワーアンプ
移動スピーカー用のパワーアンプは、アンプ室に置き、舞台上の各コンセント盤へのスピーカー回線を通して使用する形をとっている。このパワーアンプを移動できる可搬ラックに組み込むことで演出要求に合わせて自由な位置に設置ができる。移動スピーカーを合わせてユードムホール(中ホール)で使用するなど、施設内共有使用を可能とした。
グロービスホール(大ホール)システム概要図
3)舞台連絡設備
舞台下手袖の音響ラック
エアモニターや楽屋呼出、トークバック、インターカムで構成する音声モニター、映像モニターを納入した。
舞台下手袖に舞台連絡設備を集約し、開演ブザー、楽屋呼出、トークバックの操作ができる。
4)音響・連絡システムの制御
舞台下手袖のタッチパネル
舞台音響設備および舞台連絡設備の操作は音響調整室と舞台下手袖にあるタッチパネルで可能とした。スピーカーを系統ごとの入・切、楽屋呼出先選択やトークバック出力選択をわかりやすく使いやすくなるようタッチパネル画面設計を心がけた。
4.ユードムホール(中ホール)
1)スピーカーデザイン
室内楽や演劇などの活動発表、講演会や式典の会場としての用途を考え、シンプルかつ意匠を考慮しながらも求められる音量と音質に対応できる音響システムとした。
プロセニアムスピーカーとサイドスピーカーはTANNOY「VXPシリーズ」を採用。サイドスピーカーは移動型とし、催し物に応じて柔軟な音響プランが可能である。
プロセニアムスピーカー
移動できるサイドスピーカー
2)舞台音響設備
テクニカルギャラリーの音響機器
音響調整卓はヤマハのデジタルミキサー「QL5」を採用。基幹伝送はグロービスホール(大ホール)同様に「Dante」である。テクニカルギャラリーの音響架と舞台裏の音響ラックに音響回線を集約した。
また、この舞台裏の音響ラックから舞台まで配線ピットを設け、動線への影響なしに仮設配線できる。
テクニカルギャラリーの音響ラック
舞台裏の音響ラック
3)音響システムの制御
テクニカルギャラリーのシステムリモートパネル
舞台音響設備の操作はテクニカルギャラリーと舞台裏にあるシステムリモートパネルで可能とした。テクニカルギャラリーのものはラック固定ではなく可搬仕様とし、使いやすい位置に配置ができるようにした。
4)舞台連絡設備
舞台裏の舞台連絡設備
舞台裏の楽屋呼出・トークバック操作部
舞台連絡設備は舞台裏にある楽屋呼出・トークバック操作部にて操作できる。同フロアにある小ホールと連携する催事に対応できるよう小ホール楽屋を含めた楽屋呼出ができる。この動作はグロービスホール(大ホール)と統一した。
5.おわりに
舞台音響設備は、施主様をはじめ、設計監理をされた伊東豊雄建築設計事務所・横須賀満夫建築設計事務所共同企業体様、永田音響設計様、そして各工事関係者様によるご協力とご尽力により納入および施工できた。この場をお借りし、工事に関わられた全ての方々に厚く感謝申し上げる。