水戸市民会館の舞台機構設備について
株式会社サンケン・エンジニアリング
村木陽児/藤河靖英/今西鉄兵/和田佳明/末吉卓也/浦貴之/安樂陽介
大ホール
1-1.吊物機構
吊物バトン:31台
静音型ウィンチ
高精度の位置決め機能を備え、極低速・高荷重でも安定して動作する高性能ウィンチの採用により、手動式に近い繊細な動作を実現しました。
演出上での動作はもとより、仕込み作業の安全性・利便性にも貢献できます。
ウィンチ本体は舞台用に設計された静音型で荷重検知機能とワイヤ緩み検知機能を備えています。
また、樹脂製の滑車に加え表面が滑らかな吊下ワイヤーを利用することで、装置全体としての静音性に留意し、演出効果に対する騒音影響を最小限に抑えています。
さらにウィンチ本体にはシフター装置を付加することで、フリートアングルレスのワイヤーワークを実現し、すのこ上の納まりをコンパクトにしています。
□静音型ウィンチ 基本スペック
- 昇降速度と積載量:0 ~ 60m/min 時 積載量1000kg
0 ~ 90m/min 時 積載量 500kg - 舞台専用に設計されたモーター及び減速機による静音型ウィンチ
- 荷重検知(ロードセル)
- 二重化ブレーキ及びブレーキ開放検知
- ワイヤー緩み検知
- 極微低速運転(1mm/sec) が可能
照明ブリッジ:4台
照明ブリッジ
最前列のブリッジ前面にウールサージ張りの水平パネルを装備し、インナープロセを形成しています。
ブリッジ内部の上部にハーネス固定用スライドレール二本を設置し、作業員の安全に留意しています。
ブリッジ床面は、等間隔に分割されたハッチで形成し、全面が開閉可能です。
これにより、床下に設置した灯具にブリッジ上からアプローチすることができます。
また、ハッチは極力軽量化することで、舞台照明器具の角度調整などでの開閉作業の便を図りました。
スライドギャラリー:2 台(上手・下手)
スライドギャラリー
演劇対応での舞台形式において、舞台両袖のギャラリー面からバトン両端部へアプローチできるよう、上手及び下手の第一ギャラリー全体は舞台中央へスライドする走行式の機構を採用しています。
これによりギャラリーからバトンへ振れ止めの設置や、バトンへ吊り込んだ器具に対する給電要望などに対応することが可能です。
併せて照明ブリッジへの乗込み橋も四台の照明ブリッジに対応できるようそれぞれ四台ずつ内設しています。
特に乗込み橋は側面反射板との収納スペースの取り合いから格納時にはコンパクトな納まりとする必要がありましたが、フレーム構造をシンプルにすることで、乗込み時の安全性を確保しながらかつ乗込みやすさも犠牲にすることがない形状を目指しました。
1-2.音響反射板機構
舞台音響反射板(天井・正面反射板):一式
音響反射板
天井反射板及び正面反射板は収納スペースの最小化のために一体型となっています。
また、収納位置をアクティングエリア外となる舞台後方へ持っていくことでアクティングエリアが犠牲になることがないレイアウトを目指しました。
天反と正反が一体型の場合、天反の収納時とセット時で、一体型の吊元への荷重が変化し、吊元の傾斜により正反側に無理がかかる問題を、吊元にリンク機構を設けることで解決しました。
設置及び解体作業はほぼ全自動とすることで、①作業の安全性の向上②設置解体にかかる作業時間③携わる作業人員の削減に貢献します。
また、正面反射板前にホリゾント幕や看板類を吊り込める様、反射板本体にバトンを内設しています。
客席天井反射板:1台
客席天井反射板
客席上部で角度を変えることにより、空いたスペースを利用して天井から仮設の吊り物を設置できるように計画されています。
プロセニアムスピーカおよび上部開閉天井:3台
プロセニアムスピーカおよび上部開閉天井
プロセニアムスピーカの昇降装置はスピーカ本体の昇降と開閉天井の動作を兼ねた装置としました。
開閉天井自体には動力を持たせず、スピーカ本体の昇降に追随する機構を工夫することで、イニシャルコストに貢献しています。
ティーザ:1台
ティーザ・ウィング
プロセニアム高さの調整設備として利用します。プロセニアム全面を覆えるサイズになっていて、床面まで下降させることで、客席側と舞台側を独立した空間として扱うことが可能です。
ウィング:2台(上手・下手)
プロセニアム巾の調整設備として利用します。上部レール吊下式で、手動開閉式となっています。
2-1.床機構
オーケストラ迫り:2台
オーケストラ迫り
オーケストラピット及び前舞台用として同サイズの前後二連で形成され、用途に応じて奥行を可変させることが可能です。
また、駆動部には収納時のコンパクトさと安全性・信頼性からI-Lockスパイラリフトを採用しました。
レベル設定機能付きです。
客席ワゴン:2台
客席ワゴン
オーケストラ迫り上に設置する客席ワゴンも迫りと同様に前後二連で形成されています。
客席ワゴンは手押し走行式ですが、安全性向上の為、手回しハンドルによる走行アシスト機能を装備しています。
迫りの床上に仮設レールを設置することで、床仕上げに客席ワゴン車輪の轍が残らない様配慮しています。
また、手回しハンドルの代わりに電動ドリルを利用して動作を行う【電動アシストハンドル】も併せて納入し、走行作業の労力軽減に貢献しています。
昇降手摺:1台
昇降手摺
オーケストラピット形成時には落下防止のため、客席側に手摺の設置作業が必須となりますが、これを電動昇降装置にて対応することで仕込みの手間を削減しています。
また、客席とオーケストラピットを行き来できるよう、二ヵ所の開閉扉を設けています。
大道具迫り:1台
大道具迫り
舞台上手奥側に設置され、舞台面から舞台奈落面間での舞台大道具をはじめとした道具類・備品の移動に利用します。
迫りには電動昇降式の昇降柵-1を舞台面に、迫りと機械連動式の昇降柵-2を奈落面に設置し、安全面にも考慮しています。
オケ迫りと同様にI-Lockスパイラリフトを採用しています。
3-1.制御システム
CATシステムver.5
主操作卓【CAT562】と
モバイル操作卓【CAT530R】
大ホールの吊物・床・プロセニアム関連の操作・制御システムとしてWaagner-Biro社のCATシステムを採用しています。
主操作卓として【CAT562】、副操作卓兼バックアップ操作卓として【CAT560】、モバイル操作卓として【CAT530R】を各1台ずつ導入しました。
各操作卓は画面の大小による表示内容の違いのみでユーザーインターフェースは同じです。
複数卓での同時使用にも対応しています。(最大30台まで)
CATシステム ネットワーク系統図
システムは常時冗長化された高速通信ネットワーク及びサーバーを基本とした標準的なITネットワーク機器を使用しています。
高性能なサーバーユニットを採用していますので、操作レスポンスも良く、装置の応答速度にも遅延を感じさせません。
また、VPN/ファイヤーウォール接続により安全性を確保した上で、インターネット回線を通じたリモートサポートやリモートでのバックアップシステムも確立されています。
サーバーラックとローカル盤 AXIO5
各制御盤にはモーションコントローラーAXIO5が設置されます。
AXIO5はSIL3/PLe認定のコントローラーで、ホットスワップにも対応し、任意に割当可能なI/Oポートを持つため、各種ウィンチ、チェーンホイスト、廻り盆、ワゴン、昇降床などあらゆる方式の装置を制御するための入力信号を必要な電気信号として変換することが可能です。
操作画面および操作ユニット
【CAT GEAR】の構成例
各操作卓はマルチタッチスクリーンを採用し、モダンなグラフィックデザインは最新のスマートフォン/タブレット端末の視認性及び操作性と同様の直感的で判り易い操作ができるデザインとなっています。
操作コンソールは、ご要望に応じて入力デバイスを選択が可能です。
前モデルでのオペレーションはレバー操作のみでしたが、目標位置設定時はGoボタン操作も可能となりました。
また、操作ユニットの組み合わせとして操作レバーとホイール式フェーダーを組み合わせれば、本番での速度介入・精密な位置決めなども可能です。
直感的で判り易い操作デザイン
グループ割付された装置は各ページ上で1つのキューとして各種設定を行い、作成します。
キューの集合体である各ページを重ねることで、1 つの演目のショーデータとして作成します。
オペレーション方法は各ページを手動で順に送りながら、それぞれのページのキューを実行し、進めます。
ページ構成および各ページを構成するキュー群は一覧で確認でき、かつスマホ感覚で各構成要素のドラッグ& ドロップによる編集が可能です。
シミュレーションモードを標準装備しているため、実際に装置を動かすことなく、画面上でキューの実行を繰り返し確認・修正することができます。
割込みボタン
仕込み時などで、ショーデータの作り込み作業中にある装置に対する咄嗟の運転要求があった場合、割込みモードで装置選択することでショーデータに影響なく運転することができます。
色別表示 コネクター取外し例
可変速バトン用ローカル制御盤Unicornの接続ケーブルは全てコネクター式となっており、例えばコンバータが故障した場合、隣接する演出に使用しないUnicornと繋ぎ変えれば、即時復旧が可能です。
今回、接続コネクターの繋ぎ変えを分かり易くするため、制御盤と接続コネクターの側面に色別表示を施しています。
3-2.音響反射板操作システム
音響反射板用操作盤
インターロック表示【CAT562】
大ホールの反射板操作システムはCATシステムから独立した操作系となっており、【セット運転】【収納運転】の二種類のパターン運転と、【マニュアル運転】の計三種類の操作が用意されています。
パターン運転は予め決められた工程毎に装置を動作させながら音響反射板のセット・収納を行うことができます。また、音響反射板組立後に大道具の搬入などで側面反射板を一時的に上昇させたいといったパターン運転から外れる動作はマニュアル運転にて対応できるようになっています。
制御機器は制御用PLCを二重化安全システムにすることで、万が一のトラブルに対するバックアップシステムを構築しています。
また、CATシステムとの相互インターロックを設けていますので、操作系が別でも安全に反射板装置の運転を行うことができます。
やぐら広場
グリッドバトン:1台
グリッドバトン
450mm角のアルミトラスを田の字に組んだグリッドバトンを設置しました。
駆動系を内蔵したセルフクライム方式で、コンパクトな一体型装置としました。
音響照明器具用の給電ケーブルカゴを備え、様々な器具の取付が可能です。
吹き抜け部に設置されるため、操作位置の制限を無くすために無線操作とし、仕込み作業の自由度も確保しています。
各種検証・セットアップについて
工場での検証
現場据付時に想定外の事象が起きないよう万全を期すため、当社の工場にてライトブリッジ用開閉蓋については床面強度・開閉具合、乗込み橋については開閉動作を確認するため試作による検証を行い、スライドギャラリーと客席ワゴンについては実物での動作検証を行いました。
ビデオ会議システムによるセットアップ状況
CATシステムのセットアップに関しては、以前より実績のあったビデオ会議システムにて海外にいるWaagnerBiro社の技術者とオンラインで会話をしながら、遠隔監視・設定が可能である本システムを最大限活用し、来日する直前までの期間もセットアップ期間として有効に使うことができました。
最後に
大ホールにて集合写真
茨城県内最大級2000席を誇る劇場の舞台機構設備工事に携わることができ、当社としても光栄であります。
総重量約50tの音響反射板など重量級装備の設置にあたり、無事故・無災害で終えたことは、ひとえに関係者の皆さまのご協力があってこそです。
御礼申し上げます。