水戸市民会館の音響計画

株式会社永田音響設計 鈴木航輔

はじめに

この施設は、市民やプロのアーティストが利用する劇場とともに、国際会議などのコンベンション利用も想定して計画された。大ホール(グロービスホール)が中央に置かれ、南側に中ホール(ユードムホール)や会議室、展示室、スタジオ等、市民利用が多く想定される空間が配置された。

建物内は多種多様な用途の室が地下2階から地上4階まで積層されており、人々が日常的に集まれるホワイエやラウンジ空間もあちこちに用意されている。やぐら広場は、コンベンション利用時のパネル展示スペースや、地元のマーケットやイベント、パブリックビューイングの会場としても使えるように、大型の搬出入口や給排水設備が用意され、舞台機構/照明/音響関連設備も仮設できるようになっている。

弊社は施設全体の建築音響・騒音制御・舞台音響設備について、設計段階から竣工測定までの一連の音響設計を担当した。本稿では、大中ホールの室内音響計画と施設の遮音計画について紹介する。

室内音響計画

大ホール


図1 大ホール コンサート形式


図2 大ホール側壁


図3 梅反射板とRC 壁の小叩き
写真中央はウォールスピーカ


図4 バルコニー手摺のランダムリブ


図5 後壁のカーテン

ポップス等のツアーコンサートを招致できる収容人数と設備を持ち、オーケストラや吹奏楽など、生音の公演や市民活動の場としても利用できるように計画されたホールである。フライタワーを有する多目的ホールで、舞台内に吊式の舞台音響反射板を備える。

舞台音響反射板を設置したコンサート形式では、豊かな響きを持つホールを目指した。ホールに置ける生音の印象は、舞台上の可変機構だけではなく、室形状や内装材料と密接にかかわっている。音が天井や壁からどのように反射して演奏者や観客に届くか、が響きをつくるからである。このホールでは、余裕のある室容積の確保と、舞台および客席全体に初期反射音が豊富に到来する室形状とすることが課題であった。

室形状として、コンサート形式は、客席前方の迫機構1列を舞台床レベルまで上げた状態を標準とし、オーケストラが載る奥行(13.5 m)を確保した。この状態で、舞台先端の天井高さは約14 mである。天井面は浮雲状の曲面形状を配置し、上からの反射音が舞台と客席全体にまんべんなく届く形状とした。2階席、3階席のバルコニー手すり壁は、1階席中央付近に初期反射音を届けるため、約20度下向きに傾けた。またサイドバルコニーの延長でフロントサイドスポットの床を設け、音響庇の効果を期待した。

仕上げについては、客席後壁と客席床および椅子以外を音響的に反射性の材料で計画した。

梅の花を模した側壁の仕上げパネルは平行なRC壁間でのフラッターエコーを防止し、適度に音を乱反射させ温かい響きをつくることを意図した散乱体である。これらのパネルはGRC製で、左右非対称に配置された。このパネルが設置されたコンクリート壁面自体も、高音域を散乱させることを目的に小叩き仕上げを採用した。バルコニー席の手すり壁がランダムリブ仕上げのデザインとなっているのも同様の理由である。

客席後壁の吸音仕上げとして選定されたのは、樹皮のようにも見える布地である。複数のポリエステル素材を特殊な工法で重ね合わせ、防炎加工もされた音響的に未知の材料であった。小サンプルでの実験や竹中技術研究所での吸音率試験の結果より、ヒダが大きくなれば吸音性能が大きくなる傾向を確認した上で、1.5倍以上のヒダ付きで設置することとした。同じ布地のカーテンが、2階席と3階席の正面バルコニーの目隠し間仕切りとして用いられているが、これらを設置する時にはヒダを作ることができない。この時“後壁面”は音響的に反射性となり、後述するようにホールの残響時間もわずかに長くなることが確認された。

拡声設備を用いる催し物では、拡声音がしっかりした音量で、明瞭に聴こえることが重要である。そのような催し物では舞台内に幕を設置したスタンダードなプロセニアム形式とすることで、舞台内で音が吸収され、残響を抑えたクリアな響きが実現している。

中ホール


図6 中ホール コンサート形式


図7 中ホール テクニカルブリッジ


図8 中ホール側壁の矢羽根模様

隣接する水戸芸術館にあるコンサートホールATM(620-680席)とACM劇場(320-580席)が同規模のホールである。水戸芸術館の公演のほとんどがプロによるもののため、こちらは市民にとっての使いやすさが重要視された。

舞台は講演会や演劇など、拡声設備を利用する場合に舞台幕を吊り、生音のコンサートでは舞台幕を外すことで対応する多目的ホールである。舞台両側に設置された袖パネルは奥行き方向に移動することができ、演者の出入りの目隠しや仮設的なプロセニアムとして利用できる。

室内音響計画では、様々な制約がある中で天井高さを最大限確保した。客席上空を横断するテクニカルブリッジは、床をグレーチングとすることで音響的に透明と見なした。側壁には高さ6 mの位置にテクニカルギャラリーがせり出し、舞台や客席中央まで初期反射音を届ける音響庇の役割を兼ねるものとした。

側壁は、大きな面としては平行である。ギャラリーより下の壁は、フラッターエコー防止および反射音を和らげるため、石膏ボードに木練り付け仕上げの矢羽根模様の凹凸を配置した。これらの一部は垂直ではなく、やや上向きの斜めの面とし、出幅だけでなく表面の角度にも変化がある仕上げとした。

客席後壁と側壁のギャラリー上部の一部は化粧グラスウールボードを設置することで、各種催し物に対応しやすい適度な長さの響きを目指した。

騒音防止計画

遮音計画は、各室の同時利用を極力可能とするように計画した。建物の構造的なコアとして中央に配置された大ホールでは、オーケストラや吹奏楽だけでなく、茨城県内で開催が困難であった大規模なロック・ポップスなどのコンサートツアーも招致される。施設内で発生音量が一番大きいだけでなく、一番の静けさも必要であった。しかし、大ホールを他室から話すことは難しく、また防振遮音構造とするには大掛かりで複雑な工事と費用を伴う。そこで本施設の遮音計画は、大ホールで大規模なイベントを行う場合には会館全体を一体利用することを前提として、周辺諸室から大ホールへの透過音低減を目標に進めることとした。中ホール、小ホール、大会議室、特別会議室、小会議室は大ホールのフライタワー周囲に配置されており、それぞれが上下左右に隣接するため防振遮音構造を採用した。また楽器練習が可能な音楽室にも防振遮音構造を採用し、周囲の室への音漏れを低減することとした。

音響特性

残響時間

大ホールと中ホールの残響時間周波数特性測定結果を右に示す。大ホールでは2階席と3階席の目隠し間仕切りカーテンを収納した状態と設置した状態をそれぞれ示す。これらの測定時には客席前方の舞台迫りには客席ワゴンが設置された状態である。

大中ホールとも、中高音域の特性が平坦な適度な長さの響きが得られている。

遮音性能

中音域(500 Hz帯域)において、防振遮音構造を採用した室と大ホール間の音圧レベル差は以下の通りであった。

  • 中ホール~大ホール:80 dB以上
  • 小ホール~大ホール:79 dB以上
  • 大ホール~大会議室:70 dB以上
  • 大ホール~特別会議室:73 dB以上
  • 大ホール~小会議室:65 dB以上

「以上」という表記は、遮音性能が高く測定時に透過音が検知できず、音源室側の発生音の大きさと受音室側の暗騒音との差を示している。

おわりに

開館後、大ホールではいくつかのコンサートを聴く機会を得た。舞台から遠い2階席や3階席でも舞台を近く感じられ、明瞭で柔らかく、素直な響きが実現できたと感じている。また本会(JATET)の施設見学会にて舞台上で話をした際には、話しやすく、自分の声が客席側にきちんと届いているという手応えを感じることもできた。

本施設の音響設計にあたり、協力いただいた関係各位に謝意を表します。