置賜文化ホール見学会記 |
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桂川潤次郎(JATET機構部会、インターネット部会委員) | |
JATETの主催する、標記見学会が、2002年4月22日催された。その概要を報告する。関連資料及び当日撮影した写真は、データ量が多いため、別添とした。 置賜文化ホール(山形県が建設し、米沢市に運営委託)と米沢市上杉博物館(米沢市が建設)は、米沢城の跡地に一体で建設され、「伝国の杜」の愛称で運営されている。 1)移動式の能舞台を備える 文化ホールの建設にあたり、地元からの能舞台の要望を、本格的屋根付き能舞台を移動式により実現している。今回の見学会も能舞台の移動実演をメインに進められた。能舞台を使用しない時はエントランスホールに展示して、収納スペースの節約をはかり、常時本格的な能舞台の見学ができると共に、エントランスホールに展示した状態で上演することも考慮されているとのことである。見学記は筆者の担当分野に関連する、能舞台の移動を中心に記す。別添の平図面、断面図、写真等を参照願いたい。 2)能舞台移動実演 見学会で実演した、エントランスホールから主舞台への能舞台の移動は、約1時間半で完了した。その他に音響反射板を使用して能舞台の周囲を仕切る作業、脇正面の観客席移動等の作業や、前後の準備を含めると3〜4時間かかりそうであるが、担当者の習熟により所要時間が短くなっているとの説明があった。 能舞台の移動はおよそ以下の手順で進められたが、時間の関係から@〜Bは事前に準備されていた。 @主舞台迫りを降ろし、下手袖床下から脇見所座席ワゴンを引出し、舞台レベルに上げる。 上手側舞台とエントランスホールを仕切るシャッターと可動間仕切りを開ける。 能舞台巾木化粧パネルを外し、ガイドローラーが当たることへの対応をする。 A下手袖より動力ケーブルをエントランスホールまで引き出し、能舞台制御盤につなぎ、 ブロワーをを運転し、エアパッドに空気を送り込み、浮上させる。動力は3相交流200V、ブロワー11台、ウィンチ等で計65kW、動力ケーブルは直径6cmほどである。 B上手向き走行ワイヤロープを引き出しエントランスホール床にアンカーし、能舞台を約3.5m走行する。エントランスホール床から、回転の中心軸を出し、回転の準備をする。 エントランスホール展示中は、舞台壁際に90度回転した状態で配置されているが、そのままでは回転できないので、少し引き出す必要がある。 ここまでは見学前に準備されていた(ブロワー停止、能舞台は定着状態)。実演はエアパッドに再度空気を送り込むことから始められた。能舞台は3〜4cm上昇。 C時計回りワイヤロープを引出し、エントランスホール壁にアンカーし、時計回りに90度回転させた後、回転軸、ワイヤロープを収納する。 D下手向き走行用ガイドローラーをエントランスホール、主舞台床に取り付け、ワイヤロープを引き出し、下手袖床にアンカーし、ワイヤロープを巻き取って下手側に約23m走行。所定位置でワイヤロープとガイドローラーを収納。また、走行に応じて動力ケーブルを下手床下に収納。 E客席向き走行ワイヤロープを引き出し、客席最前列通路にアンカーポストを立て、ワイヤロープをアンカーし、客席側へ約2走行。所定位置でワイヤロープ、ローラー、アンカーポスト収納。 F位置規制装置で主舞台迫りにぴったり合うよう、正確に位置合わせした後、ブロワーを停止し、能舞台を定着させ、動力ケーブルを収納。、主舞台迫りを降下させ、照明ケーブルを床コンセントにつなぎ、能舞台に明かりを入れる。 見学会の実演は、ここまでであったが、続けて以下の作業が必要との説明があった。 G鏡の間と下手袖床との段差微調整。音響反射板を使用して能舞台の左右、奥、天井を囲う。能舞台上手側と脇見所客席間を置き床で埋める。 H上手側舞台可動間仕切り、シャッターを閉じて、完了。必要により脇正面の座席を付け替えて能舞台に対し45度の角度に配置する。 3)音響、調光操作室 能舞台移動の最中には、客席後ろの音響・調光室の見学もあった。会館の積極的な情報発信をサポートするべく、この規模のホールに比べて、立派な設備であった。 4)エアパッド空気浮上方式 見学会では詳細説明はなかったが、この移動装置のかぎとなるエアパッドによる空気浮上方式について筆者の理解した限りで、概略紹介する。 エアパッド浮上方式はエアベアリング方式とも呼ばれ、ホーバークラフト方式とは全く別のものである。ゴム製空気座布団状エアパッド下面の無数の微少孔から空気を吹き出し、0.1o以下(数ミクロンかもしれない)の空気幕を作り、浮上し、走行抵抗を非常に少なくできるものである。空気圧は能舞台裏制御盤の圧力計では16〜20kPa(キロパスカル:約0.16〜0.2気圧に相当)を指していた。約0.8m×1.1m(膨らむ前の寸法)のエアパッド44枚で能舞台全重量40トンあまりを支える。走行は内蔵の電動ウィンチでワイヤロープを巻取り移動する。ホーバー方式に比べ、使用空気量が非常に少なく、吹き上げる埃も、著しくないようであった。軽量のものでは手動式走行も可能であるが、大型大重量物では、駆動機構とガイド機構が必要である。今回の施設では、これらの点を上手にまとめていると感じた。 5)終わりに この見学会を実施していただいた、置賜文化ホール、設計者、舞台コンサルタント、工事の各関係者とJATET教育研修委員会・事務局に御礼申し上げます。 別添、ホール平面図、断面図、写真を見る方は ここを クリック して下さい。 データ量が900kBほどありますので、モデム接続の場合は、データを取り込み、表示されるまで、5分前後かかることもあります。 |
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施設概要・ホールデータ(見学会資料及び伝国の杜パンフレットより) 施設名称 伝国の杜(置賜文化ホールと上杉博物館の全体をあらわす愛称) 所 在 地 山形県 米沢市 丸の内 一丁目 設 置 者 山形県(置賜文化ホール)、米沢市(上杉博物館) 管理運営 米沢市、米沢上杉文化振興財団 開 館 平成13年9月 開館時間 9:00〜22:00(博物館は17:00まで) 休 館 日 毎月曜日・年末年始(月曜日が休日の場合はその直後の休日でない日) 敷地面積 33,887.3 u 延べ面積 9,047.4 u (ホール4,321.5u、博物館4,725.9u) 規模・構造 地上2階、RC造一部SRC・S造 主な施設 ホール、大会議室、 博物館、体験学習室、情報資料ライブラリー、喫茶、ラウンジ、ショップ、小会議室、他 設 計 者 関・空間設計 劇場コンサルタント A.T.Network |
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ホールデータ ホール概要 劇場・ホールの基本性能を大切にしながら、可動式能舞台を持ち、専用性の高い多目的 ホールとして置賜の人々の参加創造を目的とした舞台芸術の場。 客 席 数 劇場・コンサート形式時 500席(車いすスペース2台分有) 能舞台設置時 552席 脇花道設置時 470席 客席形式 単床式式 舞 台 プロセニアム開口寸法 幅18.0m、高さ9.0m 主舞台奥行き 14.2m 舞台全巾 33.6m ピアノ庫 上手袖奥 舞台備品庫 下手客席廊下となり 大道具搬入口 下手袖 開口寸法 幅3.0m、高さ3.0m 楽 屋 大楽屋 約59u×1室、約39u×1室(一体的に使用可) 小楽屋 約15u×2室 中楽屋 約33u×1室(間仕切り可):楽屋事務室兼用、楽屋入口脇 残響時間 1.5秒(500Hz)音響反射板設置・空席時 舞台設備工事 舞台吊物機構 三精輸送機 (建築工事) 舞台床機構・能舞台移動機構 潟Tンケンエンジニアリング( 同 ) 舞台照明設備 鰹シ村電機製作所 (電気設備工事) 舞台音響設備 山形ナショナル電機(株) ( 同 ) |