国立劇場おきなわ見学会記
永池雅人(JATET建築部会委員、梓設計)
2003年11月21日(金曜日)JATET主催による「国立劇場おきなわ」見学会が開催された。当日は遠隔地にも係わらず40名を超える参加者があり盛会となった。見学会は久保田事務局長による開会、森教育研修部会長による挨拶に続き、草加理事の司会のもと久保田勲氏(国立劇場おきなわ常務理事兼事務局長)挨拶、井上誠氏(高松建築設計事務所)による施設概要説明、関係者紹介、施設見学、質疑応答と進行された。
建設の経緯
沖縄を代表する伝統芸能である組踊は、18世紀琉球王朝時代に本土の能を基礎に創作された歌舞劇で、当時首里城の中庭に設けられた特設舞台において上演されていた。1972年沖縄の本土復帰に伴い、この組踊は国の重要無形文化財に指定されたが、公演や技芸の継承、伝承者養成、記録保存等のための施設が無く、沖縄伝統芸能の保存振興を図る拠点施設として「国立組踊劇場(仮称)」の建設が求められていた。それをうけ平成8年当時の橋本内閣の下、沖縄振興策の一貫として「国立組踊劇場(仮称)」の建設が決定され、平成10年公募型プロポーザルにより高松建築設計事務所が設計者として選定された。その後基本・実施設計を経て平成12年11月に建設工事を着工し、平成15年7月に竣工して、現在平成16年1月の柿落としに向け準備が進められている。柿落とし後3月までの間、毎週週末金・土・日と800人出演による公演が予定されている。
事業計画
沖縄には組踊をはじめとして、琉球舞踊、琉球音楽、沖縄芝居、その他民族芸能等さまざまな伝統芸能が存在し、本施設においてはそれら全ての上演が予定されている。そのため施設の名称も当初の「国立組踊劇場(仮称)」から、検討の結果「国立劇場おきなわ」に決定された。また、国立劇場として沖縄の伝統芸能に留まらず、本土や中国、ベトナム、インドなど広くアジア・太平洋地域との交流やその芸能の上演も視野に入れている。
施設の建設費をはじめスタッフの人件費や運営費まで全て国庫でまかなわれることになっている。ただし自主公演については特別会計として入場料収入でまかなわれる予定である。
スタッフは29名で構成され、内24名は県からの出向、残り5名は日本芸術文化振興会からの派遣である。
設計概要
もともと組踊は、琉球王朝時代首里城の中庭に、現在の能楽堂に近い仮設のオープンステージを組んで上演されていた。しかし、現在ではプロセニアムステージの中に所作台を組み、本舞台と橋掛かりを作って上演されている。このような発展の経緯から組踊をはじめとする沖縄の伝統芸能にはこれといった決まった舞台形式が存在しない。そのため本施設の設計にあたり、設計者は沖縄の伝統芸能のための舞台・客席のあり方を探ることからスタートしている。具体的には、地元の演者、演奏家、演出家、舞台技術者、研究者等を集めてヒアリングワークショップを開催し、仮設舞台での検証等を経て、もともと3間四方で行われていた舞台を4間四方の張り出し舞台として結論付けた。
一方、もう一つの課題として沖縄らしい建築のあり方が求められた。これに対し設計者は、「堅牢で彫りの深い、かつ呼吸するような建築」のイメージを追及した。琉球王朝時代の「雨端」と呼ばれる軒下空間や網代状に竹を編みこんだ「チニブ」と呼ばれる外壁をモチーフに建物の外観がデザインされている。中には首里城そのままの形態を求める声などもあったが、伝統的な形をそのまま継承するのではなく、そのエッセンスを汲み取り現在の素材で再現したとのことであった。
ホール内装は伝統的な芝居小屋をイメージした箱型の形状としながら、音響的な障害が発生しないよう木格子を利用した吸音壁としている。最近等間隔のリブ状吸音壁による音響障害の事例もいくつか報告されているが、ここではさまざまなピッチのリブの組み合わせにより構成されており、この問題を解決すると共に壁面に軽やかなリズムを与えている。
施設の構成としては、上演の場としての大・小劇場もさることながら、伝統芸能を育て、保存していく場としてその練習室の充実振りは目を見張るものがある。浮床構造を採用して舞台と同じ大きさを確保した大稽古場や、床を琉球松とした組踊用練習室、ハイビジョン対応の映像編集室、司書の配置が予定されているレファレンスルームなどそれぞれ細かな配慮がされている点も特筆しておきたい。
国立劇場おきなわ施設概要
名 称:国立劇場おきなわ
所 在 地:沖縄県浦添市勢理客4丁目14番1号
敷地面積:24,000u
建築面積:7,239u
延床面積:14,729u
構 造:鉄筋コンクリート造、一部プレストレストコンクリート造
階 数:地上3階、地下1階
設 計・監
理:高松建築設計事務所
舞台コンサル:空間創造研究所
音響コンサル:石井聖光
舞台機構:カヤバ工業・國和設備工業JV
舞台照明:松下電工・東部電気土木JV
舞台音響:ヤマハサウンドテック・南西電設JV
【大劇場諸元データ】
客席 客 席 数:632席(プロセニアムステージ)
578席(オープンステージ)
579席(花道設置時)
客席構成:1階席522席
2階席110席
車椅子席4席(椅子席取り外し設置)
舞台 舞 台 形 式 :プロセニアム形式
プロセニアム:幅14.5メートル、高さ7.3メートル
舞 台 寸 法 :幅40.4メートル、奥行き21.9メートル
すのこ 高さ :18.6メートル
搬 入 口 :幅5.7メートル、高さ4.0メートル
楽屋 大楽屋(53u)1室、中楽屋(36u)4室、小楽屋(18u)3室
着付床山室(25u)1室
残響時間 1.13秒(空席時)
【小劇場諸元データ】
客席 客 席 数:255席(プロセニアムステージ)
車椅子席2席(椅子席取り外し設置)
舞台 舞 台 形 式 :プロセニアム形式
プロセニアム:幅12.1メートル、高さ6.3メートル
舞 台 寸 法 :幅17.7メートル、奥行き9.5メートル
すのこ 高さ :15.4メートル
搬 入 口 :幅5.7メートル、高さ4.0メートル
楽屋 中楽屋(41u)2室
残響時間 0.86秒(空席時)
【付帯施設】
稽古室 大稽古室(229u)1室、中稽古室(141u)1室、小稽古室(44u)5室
録音スタジオ(132u)1室
その他 大道具制作室、研修室、展示室、閲覧室等
外観1 外観2
共通ロビー1 共通ロビー2
大劇場 ホワイエ1階 大劇場 ホワイエ2階
大劇場 楽屋小 大劇場 楽屋中
大劇場 楽屋大 レファレンスルーム
養成研修室 大稽古場
大劇場舞台袖 大劇場 音響調整室
映像編集室 大劇場 フォロースポット室
小劇場 調光機器室 舞台入り口姿見
大劇場 前舞台迫り 大劇場 花道迫り
大劇場 紅型 大劇場 舞台
大劇場 大迫り 大劇場 大迫り安全ネット
奈落 回り舞台フレーム 奈落 大迫りフレーム
大道具制作室 花道迫りフレーム
すっぽん迫り乗り場 大劇場舞台床
森健輔協会教育研修部会長 久保田勲国立劇場おきなわ
常務理事兼事務局長
国立劇場おきなわ職員の皆さん 井上誠氏(高松建築設計事務所)